微風





-------------ね、泰明さん、こっちに来たこと後悔してない?
この言葉が時々のどまで出かかる。

あんなに自然に溶け込んでいた泰明がコンクリートの街で
語りかけてこない樹木をさみしそうに見つめているとき・・・・








「おそくなったな。」
急ぎ足で自宅に向かう泰明。
彼の愛しい恋人あかねが 泰明のもとですごす週末。
婚約して、彼女の両親も認めた二人だけですごせる時間。

とっくに待ってるであろうあかねのことを考えもどかしい想いで玄関をあける。
きちんと並んだあかねの靴。
「あかね!」
リビングのドアを開け呼びかける。

返事がない。

「神子?」
昔の呼び名が想わずでてくる。
少し空いた窓からさわやかな風がカーテンをゆらして入ってくる。
ソファから感じる想い人の温かい気。

「いた。」
安心するように目許をゆるめ そっと近づく泰明。
規則正しい寝息が聞えてくる。
「眠ってしまったのか・・・」
やわらかな風があかねの薄桃色の髪を揺らす。
心地よさそうにふと微笑が浮かぶ。
「ん、や・・す・あ・き・・」
あかねの口からもれる寝言。

泰明が破顔する。

「おまえは眠っていても私に呪をかける・・・」
起こさぬようにそっとあかねを抱き上げ、奥の寝室に運ぶ。

そっとベッドにおろそうと身をかがめたとき、ふいにあかねの腕が泰明の首にまわされた。
ぱちっと開く翡翠の瞳。
「あ・・・おかえりなさい。」
微笑むあかね。
「ただいま。」

泰明の唇があかねのそれに重なる。




---------------神子、おまえは私に呪をかけつづける。
その声で、唇で、瞳で、すべてで・・・・
おまえがいる場所がわたしの場所だ。ここに来て・・・

本当によかったと・・・・運命だったと・・・・
心から・・そう、想う。

・・・・愛している・・・・

カーテンに映るかさなる二人の薄い影をさわやかな微風が揺らした・・・。



     
     


KURAへ