「い」・・・いとおしいの「い」 いじめたいの「い」





起きた。

天気が悪い。

それに気付いた瞬間から僕は苛立っていた。

クローンという形で生まれた僕はやはり朔と比べると不完全なところがあって、こんな天候の日には体調不良になってしまう。

こんな日は朔を避けておくに限る。

どうしたって当たってしまうし、そうするとぴーぴー泣かれて余計面倒なことになる。

だが、またこういう日に限ってあのコは僕を構いに来る。

おそらく僕の体の変調を薄々察しているのかもしれない。

朔はお気楽でおよそ考えてから行動するタイプじゃない。

だから僕にも本能的に接してくる。

‥‥ヒトノ キモシラナイデ

早々に僕は研究所に閉じこもった。

ここにはリヴたちの頭蓋骨やら、朔の苦手な例のムシやらがいて、よほどのことがなければ彼女は足を踏み入れない。


だが僕にとってはここは馴染みある空間だ。

そんな安心できるはずの空間も今日の苛々には効果がなかった。

仕方がない。

やりかけの研究は放っておいて、試験管で薬を混ぜて遊んでみた。

色水を作るのは嫌いではない。

色々混ぜているうちに気付くと朔の髪の色を作っていた。

‥‥何、やってんだ>自分

「‥‥ざよい、十六夜?」

いきなり後ろで声がした。

「朔!なんでここにいる」



「えぇっと十六夜が研究室に行ったって埋火に聞いて〜」

僕は朔のゆるいペースが嫌いだ。

こいつは動作ものろいが喋るのものろい。

なのに必要のないことを常に考え、寄り道ばかりする。

「何か手伝えることはないか、と思って」

「ない」

即答すると朔は『え〜〜』と口を尖らせた。

僕の仕事に手を出そうとは朔のくせに生意気だ。

「なんで〜?朔、何でもするよ?試験管洗ったりとか、十六夜のペットにエサも上げちゃうし」

「ペットじゃない。実験動物だ」

「え〜〜〜、そんなの可哀想だよ」

「なんでペットならよくて実験動物ならかわいそうなんだよ!」

別に殺したりするわけじゃないし、少し細胞を貰うだけだ。世話だってちゃんとしてる。

僕が何をやってるかなんて大して知ろうともしないくせに。

苛々して僕は試験管の中の色水を流しにぶちまける。

「あ、朔が洗ってあげる」

「莫迦っ、触るな」

ガチャンという音がして案の定、試験管が割れてしまった。

朔は不器用だ。慌てずゆっくりすれば何でも出来るのだろうが(何せ一応は僕のオリジナルなんだから)こうやって焦ると決まって失敗する。

「う‥‥」

言わんこっちゃない。

「触るなといったろう」

「ご、めん、なさい」

もう朔は半泣きだ。

大きな臙脂色の瞳に涙がみるみるうちに盛り上がってくる。

だぁ〜〜〜!!苛々する。

そうしている間にも朔は「うぇっふぇ〜〜ん」としゃくりあげ始め‥‥

「あ〜〜〜!!もう泣くな。怒ってないから」




結局、いつもこうなるんだ。

べそをかく朔を膝に乗せて、なんで僕がこんなことを?と自問しながら、とにかく抱きしめる。

朔からはおやつに食べたのだろう、バニラの香りがした。

食べ物の匂いは嫌いだが、なぜか今日はそんなに嫌じゃない。

しばらくしてようやく朔は落ち着き、はにかむように再び『ごめんね?』と謝った。

その顔を見ているとむくむくとどす黒い感情がわきあがった。

「朔」

「なぁに?」

「そんなに僕の手伝いがしたいの?」

「うん。朔、十六夜のお役に立ちたい!」

「じゃ、頼もうかな。僕のペットにエサをやってくれる?」

「え?十六夜、ペットなの?実験動物じゃなくて?」

「うん。僕の仮眠室で飼ってる子がいるんだ。エサはすぐ傍に用意してあるから頼む。僕は試験管の破片を片付けないと」

「うっ、ほんとにごめんね?朔が片付けようか?」

とんでもない。

「いや、いい。朔が弄ると余計手間がかかるから」

「優しいね、十六夜は」

そういうと朔は嬉しそうに隣室に向った。

その言葉、後悔するのは何秒後かな?

1,2,3,4‥‥


「ぎゃあああああああああ」


13秒後、朔の絶叫がこだました。





mushi04.jpg
十六夜のペット?瓶にぎっしり詰まっているのと蛍光色がダメなようです。




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