キミが生まれた日、ボクのウまれた日

朔が生まれたのはとあるお城の研究室。

長い間大切に大切に隠され守られてきた小さな一粒の種。

不思議な色に輝くその種を見つけたとき『その人』は何を思ったのだろうか。




その人が慎重に慎重に育てた種はやがて大きくなり・・・朔になった。

朔の本当の名前は朔夜比女という。

始めは硝子の中で、やがて外に出された朔はムシクイたちに守られ大きくなり・・・。

特別な種から生まれた朔は当然学究の対象で。

自分の島をもってからもずっと監視の目は光り続けていた。

そんなことも知らない朔は窮屈な城から解放され島でのびのびと暮らしていた。

自分は自由だと疑いもせずに。






その間も『朔夜比女』という存在の研究は進められていた。

朔の細胞を培養していくつもの命が作られた。

けれどどれも研究を拒むかのように成長を止め枯れてしまう。

そんな中たった一つだけ無事に生育したのがモチヅキだった。

朔がまだ種のうちに自然に分裂した細胞を育てた半身。

つまりは朔の双子の弟。

モチヅキは完璧な朔のクローン体だった。

見た目も性格も。

朔にとって対なる存在…それが『望月君((モチヅキノキミ)』だった。

かれもまた研究のために生かされた存在だった。

貴重な朔が太陽の下で生を謳歌していた頃、同じ姿性格を持つモチヅキは研究室が全世界だった。

それでも素直な性格の彼は何の疑問も持たず、暮らしていたという。

が、本来太陽の下で育てるべき種を室内で育てていたんだ、無理は生じる。

破綻は突然やってきた。

おそらく倒れて意識が遠のくまでモチヅキは能天気に自分の生に何の疑いも抱いてなかったと思う。

何せモチヅキは朔なのだから。

モチヅキの命が消えようとする寸前、『その人』の手は再び『命』を取り出し…

そして

ボクが生み出された。







朔が神秘の光の下大切に育まれたのと比べてボクは味気ない実験室で本当にダメ元で育てられていた。

だれもうまく育つなんて期待はしていなかった。

たった一人以外は。

アカムシクイの埋火は研究室で飼われていたモノだ。

朔の誕生からモチヅキの死まですべてを見てきた彼女はボクに何を思ったのか。

朔のクローン…正確にはモチヅキのクローン体であるボクが、ボクだけがなぜ無事に成長できたのか。

埋火は奇蹟だとか、亡き望月君が守ってくれたのだ、とか考えているみたいだが、そんなことは非科学的だしボクは信じていない。

とにかくボクは成長し硝子の外に出られるまでになった。

けれど、ボクは不完全体だった。

まず見た目が違う。

目つき、包帯で隠さなければならない体。

そして決定的なのは性格だった。

夢想家で天真爛漫な朔とはほど遠い醒めた現実主義者。

研究者たちは驚愕したという。

ボクがオリジナルたちと比べて別の意味で完璧だったからだ。

頭脳も運動神経も。

だけど他人曰くその美点をことごとく打ち消すほど性格が破たんしているんだそうだ。

人が喜びとすることを喜びとして理解できないボク。

食事すらボクには苦行でしかない。

何を食べても不味いし、生きていくうえで必要だからと強要されても別にどうとも思わない。

食事の度に物好きにもボクの世話係を自分から買って出た埋火を悲しませても…それすらボクにとってはどうでもよいことだった。

そんな生活がしばらく続いた。

何でもできるボク。けれど人の心がわからないボク。

『その人』はボクに『十六夜君』と名付けた。

イザヨイ。

望月から一日欠けた月。

ボクにはモチヅキと比べて足りないものがあるということ。

ボクに足りないのは心だというのか。

埋火に連れられてこっそりと朔の島を訪れたのは今思えば『その人』の差し金だった気がしている。

朔は…輝いていた。

ボクがもたない輝きがあのコの中から溢れて周囲を照らしていた。

朔のくせに。

朔とは新月の夜のことだ。

完全に名前とは正反対な朔。

『だからだよ』

『その人』の声が聞こえた。

----光なき夜空を照らす力を持ったあの子だからその名を与えたのだ。

----たとえ朔の夜でも自らの光であたりを照らせ、と。


じゃあボクは?ボクは何なんだ。

期待されずに生まれたボク。

そのボクの頭脳が優れているとわかるや手の平を返すように期待が集まった。

朔の完全なクローンを彼らは諦めていない。

----朔夜比女のそばで暮らしてみる気はないか

『その人』の囁きに生まれて初めてボクは素直に従った。








研究所を出て独り立ちする条件はただ一つ。『研究を続けること』

研究はボクにとっては日常のこと。異存はない。

ボクは朔の家の近くに研究所を兼ねた家を構えた。

「十六夜君、ここは気持ちのいいところですね」

久しく研究所から出ていなかったアカムシクイの埋火が嬉しそうに言う。

「何、喜んでるの。・・・ってか、本当におまえもここに住む気なのか?」

「はい!もちろんです」

研究所でボクの世話係だったからといってこんな田舎の島まで付き合わなくていいんだぞ?そう言っているのに埋火は付いてくるといってきかなかった。

「おまえ、自分の研究はどうするの?」

「表に出るのは久しぶりなのでしばらくは動植物の採集をしようと思っています。この島はうってつけのようです」

「へぇ」

ボクが興味を失っても埋火は平気だ。

「朔夜比女さまにはいつご挨拶に行かれるのですか?」

「そのうち」

「そのときはぜひお供させてくださいね」

「・・・」

絶対に一人で行こうと思う。

「十六夜君、聞いていらっしゃいますか?」

埋火を無視して部屋に入る。

朔夜比女・・・か。

ボクとモチヅキのオリジナル。

・・・どんな存在なのか。



----たとえ朔の夜でも自らの光であたりを照らせ、と。




明日あたり会いに行ってみるか。

・・・ボクを見て朔は何を思うのだろう?















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